喧騒を離れて、謎の川。
HM STING 07 1st, 2010
ナンバー〇〇 紺色の富士重工。短髪の大柄、ノースリーブで使用ロッドは――
緊急の情報網を使い照会するも、その男の素性は明らかにはならなかった。ただ、弟子・よし枝豆(旧よし枝)だけはその問い合わせに過剰反応をした。
「イレズミ、入ってますか・・・」 特に別にと私は回答したが、電話越しに弟子のただならぬ緊張が伝わって来た。
フィールド非公開が暗黙の条件となっているこの釣が故に、情報戦線の真っ只中を行かざるを得ないことは、残念で不本意ながらも“当然”として認知するしかない。探し当てたフィールドで人影を感じたものならば、隠れ隠れられるの若干間抜けな攻防でも正攻法とする現状があるのは否めない。自己中心的で何とも余裕の無い挙動にも思われるが、現実問題の“釣人として”余儀なくされていること。それだけ魚が減っており、その逆に釣人が増加しているという現実が生んだ実情。
遠目で私が男の存在を確認したと同時に、男が釣竿を投げ捨てたのが見えた。次の動作は互いに同じ、腰を屈め藪の中に身を潜めたが、人影はもう一つあった。長い髪を覗かせたのは女性であった。これは新手のアダルトビデオ撮影――? 人が近付くことが稀である閑散としたフィールドで、在らぬはずの女性の姿に私は少しだけ隠した身を乗り出した。若干、ドキドキしながらではあったが―― それを見て、また男は多い茂る藪を掻き分けて逃げ出す。取り残されたシルエットの女性は不安になったのだろう。藪の中で立ち竦み携帯電話を握り、しきりに辺りを見渡し姿を消した男を追っていた。
「イレズミ、入ってますかっ」 だからそれはないと言っているにも関わらず、弟子の緊張は何故か高潮している。ここは敢えて「鯉釣り風」に扮し、男と女の挙動を探ろうとした私の策は見事に的中した。やっぱりアダルトビデオだったりして―― 若干、鼻息を荒くして練り餌を握る一連の動作をパントマイムでやり抜いた。すっかり騙された男が藪より這い出てくる音が風に乗り伝わって来た。いよいよ脱ぐのかと思わせた女性はカメラを構え、男は茂みに隠していた大きな頭の魚を持ち上げた。
騙し騙されは人対魚を超え、水から這い上がった地上で人間同士、くだらなく繰り広げられている。変態アダルトビデオの撮影だった方が、どれほど面白かったか――(×) 心行くまで釣りを、対魚を、対自然を愉しみたいのであれば、更に歩を進めなければならないのか。見出せない答えを模索しながら、今日も私は藪を進んでいた。
「イレズミ、入ってますかっ!」
弟子はイレズミを入れたいのかナァと、ぼんやり考えながら―― (笑)
画像は水溜りに思わせて、踏み込んだ者を奈落の底へと引きずり込む水溜り、いや深い川の図。修学旅行生でごった返した京都のごとく、様々な魚たちが常に群れている。私が執拗に狙っている魚も例外ではなく、恐ろしい数の個体で群れている。今年は特にその数が尋常ではなく、強ち間違いでもなく本当に修学旅行なのではと思わせる程に。
しかし、葦原に囲まれた岸際、そして釣人を水面に寄せ付けない様にと敷き詰められた枯れ葦は、鉄壁の防護となり釣人を拒む。およそ釣りにならないこの謎の川で、悪戦苦闘。攻略するのに実は、一月も掛かっちゃいました(×)



